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京都地方裁判所 昭和57年(行ウ)5号 判決 1984年3月29日

京都市南区吉祥院石原長田町一番地一

桂川ハイツ五号館九〇七号

原告

前田正文

訴訟代理人弁護士

田浦清

京都市下京区間之町五条下ル大津町八番地

被告

下京税務署長

今福三郎

指定代理人検事

饒平名正也

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

訴外東山税務署長が、昭和五四年七月二三日付でした原告の昭和五二年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(異議決定によって一部取り消された後のもの・以下本件処分という)のうち、分離長期譲渡所得金額六七七万六七二二円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の全部を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  当事者間に争いがない事実

次の事実は、当事者間に争いがない。

(一)  原告は、昭和五三年三月一四日、東山税務署長に対し、昭和五二年分所得税の確定申告をしたが、その内容、その後の経過及び本件処分の内容は、別表1記載のとおりである。

本件の争点である後述の原告の訴外合資会社大石天狗堂(以下大石天狗堂という)に対する求償権の放棄に基づく分離長期譲渡所得金額をのぞくその余の分離長期譲渡所得金額の計算は、次のとおりである。

<省略>

(二)  原告及び原告の弟訴外大石良三(以下原告らという)は、昭和五二年六月一七日、別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)を、京都市山科区音羽千本町二九番地訴外高木康之亮外三名に総額九九一四万九四一〇円で売却した。

原告は、同年分の確定申告に際し、本件不動産の譲渡所得について、所得税法六四条二項(保証債務を履行するための資産の譲渡)の特例規定を適用し、保証債務の額一八〇二万四七一三円を、譲渡所得の金額から控除して、分離長期譲渡所得の金額を一二七七万六七二二円として申告した。

東山税務署長は、右譲渡所得について調査したところ、保証債務のための譲渡ではあるが、求償権を行使することができないとはいえなかったとして所得税法六四条二項の規定の適用を否認し、分離長期譲渡所得金額を二七六五万九七九二円(異議決定による一部取消後の額は、二四九七万八八〇一円)とする本件処分をした。

(三)  原告が代表取締役、原告の弟大石良三が専務取締役をしている同族会社である大石天狗堂は、昭和五二年三月に融通手形の決済不能に陥り、同月一八日、和議開始の申立をすることとなった。

和議開始の申立があったことにより、大石天狗堂へ金銭を貸し付けていた金融機関は、その連帯保証人となっていた原告らに保証債務の履行を要求し、原告らは、本件不動産を売却し、その譲渡代金の一部でもって右保証債務を履行した。

そして、原告は、昭和五三年三月一三日、主たる債務者大石天狗堂に対し、前記保証債務の履行により生じた求償権の放棄を通知し、同月一四日、所得税法六四条二項を適用して確定申告書を提出した。

(四)  大石天狗堂の経理内容は、別表2、3記載のとおりである。そして、大石天狗堂の借入金の状況は、別表4記載のとおりである。

二  本件請求の原因事実

(一)  東山税務署長が、所得税法六四条二項の規定の適用を否認したうえした本件処分は、違法である。

(二)  そこで、原告は、被告に対し、本件処分のうち請求の趣旨一項掲載の範囲を超える部分の取消しを求める。

三  被告の主張

(一)  原告の大石天狗堂に対する求償権の行使は、次の理由によって可能であるから、所得税法六四条二項を適用する場合に当たらない。すなわち、

(1) 原告の保証債務の履行は、大石天狗堂の経営悪化によるものではない。

原告らが保証債務の履行をした直接の原因は、大石天狗堂が訴外株式会社直外朱竹の会(以下朱竹の会という)等と交換しあっていた融通手形が不渡りになったことによるものである。大石天狗堂は、朱竹の会等と融通手形を交換しあっていたところ、これらの融通手形交換先の倒産により、交換先から受け取り割引に回していた右手形並びに大石天狗堂が振り出していた手形の決裁を迫られることになったのであるが、これらは全く予期しない計算外の手形の決済だったため、各手形の支払期日までにその決済資金を捻出することができなくなった。そして、そのことにより不渡処分が発表されることとなると、債権者による独自の債権回収が行われ、倒産の事態になりかねないため、大石天狗堂は、和議の申立て、会社財産の保全処分の申立てを行った。

ところが、金融機関から資金を借り入れた際の金銭消費貸借契約証書には、和議開始の申立て等があった時は、直ちにその債務を弁済することと定められていたため、金融機関はその債務の弁済を要求し、債務者である大石天狗堂の連帯保証人となっていた原告らは、個人資産を売却してその履行をした。

このように、和議の申立ては、一時的、突発的な原因による資金不足によって会社が倒産することを防ぐためになされたのである。そして、原告らの土地譲渡による保証債務の履行は、和議の申立てを原因とする金融機関からの一括弁済を迫られたことによる。

(2) そうしてみると、大石天狗堂の状態は、原告らが求償権を放棄しなければならない状態ではなく、原告らは、大石天狗堂が継続する限り、今後原告らからの長期借入金として大石天狗堂に対し、将来にわたって返済を求めていけばよかったのである。

(3) 事実、別表3により大石天狗堂の売上状況をみても、保証債務履行前の昭和五一年三月三一日事業年度期まで順次売上げが増加し、各期の損益についても損失が減少し、昭和五一年三月三一日事業年度期に至っては利益が生じている。

また、求償権放棄後の昭和五三年四月一日から昭和五六年三月三一日までの各事業年度期においても売上げが増加すると共に損失が減少しており、昭和五六年三月三一日事業年度期に至っては大幅な利益を計上している。

これら一連の業績好転の大きな原因となったのは、昭和五〇年に意匠登録をした女児玩具「ておりプチ」のヒットによる順調な売行きであり、保証債務を履行した時点及び求償権を放棄した時点では、既に売上実績が上がりはじめており、その後も更に売上げが伸びることは十分予想ができた。

このことは、和議申立書の中にも、右玩具の売上げが期待されるので、適当な支払いの猶予があれば再建も可能と述べられている。

求償権放棄の時点では、会社業績が確実に伸びる商品が開発されており、原告の求償権についても、一括弁済を受けることは無理でも長期的な借入金返済と同様の方法をとれば、当該求償権の行使は可能であった。

(4) 和議認可の決定で定められた和議条件を見ても、一部返済の猶予はしてもらっているが、全額弁済は行うわけで、和議の場合に通常見受けられる債務の一部支払免除がない。

大石天狗堂の和議申立ては、単なる支払猶予をしてもらうためのものであり、支払猶予によって債務の全額弁済が可能であるというのであれば、原告は、その求償権を放棄することなく、その返済を待つべきである。

(5) 大石天狗堂は、和議認可決定(昭和五三年一月二四日)の六か月後の昭和五三年七月三一日、訴外京都中央信用金庫十条支店から三〇〇〇万円(昭和五四年三月三一日現在の残二七〇〇万円-別表4)の新規借入れを受け、更に、別表4のとおり昭和五五年三月三一日現在の国民金融公庫からの借入金の残高は、昭和五四年三月三一日現在の六〇万円から四〇〇万円へと増額されており、また、それらはいずれも毎期徐々に返済していることがわかる。

一般に、金融機関が融資をするにあたっては、相手方の営業状態、財務内容及び信用状況等を綿密に調査して回収見込みのある健全な企業に限って融資を行っていることからも、大石天狗堂は、安定した企業内容を保持していたものということができる。

また、和議申立前の大石天狗堂の取引先は、その後も変わることなく取引を行っており、営業面における信用も安定を保っているといわねばならない。

(6) また、大石天狗堂は、前述したように昭和五一年三月三一日事業年度期及び昭和五六年三月三一日事業年度期に利益を計上しており(別表3参照)、また、別表2のとおりいずれの期にも債務超過の事実はない。

別表2の「<7>流動比率」及び「<8>当座比率」は、企業の短期的な支払能力を表わす基本的比率で、前者は企業財政の流動性を示すものでこの比率が高い程支払能力があるということであり、また、後者は、短期負債に対し、極めて短期間に現金化して支払手段となり得る資産の占める割合である。

しかして、大石天狗堂のいずれの比率をとっても、原告らが保証債務の履行に伴う求償権の放棄をした昭和五三年三月三一日事業年度期を底として、毎期向上し安定した指数を示している。

<省略>

<省略>

注<1> 流動資産とは、現金化、費用化しやすい資産であり、大石天狗堂の場合、現金、預金、受取手形、売掛金、棚卸資産、短期貸付金、未収入金などである。

注<2> 当座資産とは、現金、預金及び売上債権などのように短期間に現金に換えることができる資産である(流動資産から棚卸資産を減じたものである)。

注<3> 流動負債とは、支払手形、買掛金、短期借入金、未払金、未払費用、預り金、仮受金などの短期負債であって一年以内の短期間に返済ないし支払わねばならない負債である。

(7) 以上の次第で、保証債務の履行に至った経過、その内容や求償権放棄時及びその前後の大石天狗堂の経営状態、財産状態を検討した結果、大石天狗堂に対して求償権を行使しても、その目的が達しえないとは到底いえない。

そうすると、原告の求償権の放棄について、所得税法六四条二項の適用を認めることは無理である。

(二)  このほかの原告の昭和五二年分の所得金額の計算については、争いがないから、本件処分は、正当であり、取り消されるべき瑕疵はない。

四  原告の反論

(一)  所得税法六四条二項は、その適用要件について、求償権を行使することが「できないこととなったとき」と定めているだけで、いかなる状態を求償権行使不可能というかについては、税法はなんらの定めもしていないから、社会通念によってこれを解釈せざるをえない。

そうだとすれば、求償権行使不可能の状態とは、主たる債務者について、求償権を行使してもその目的を達せられないことが確実となった場合にかぎらず、主たる債務者の破産等の決定的な状態だけでなく、事業の継続中であっても、事業の再建の見通しがないことその他これに準ずる事情の有無にかかわらず、相当期間債務超過が継続するような場合、その相当期間を現況において通常予測しうる将来のある一定期間を想定してその期間に求償権行使が不可能と認められるときも、求償権行使不可能というべきである。

(二)  大石天狗堂の昭和五三年三月末日現在の借入金は、約三〇〇〇万円である。そのうち、長期借入金は、約二六〇〇万円強である。その弁済のために、何年間を要するかを検討してみると、売上総利益から販売費、一般管理費を差し引いた残額、すなわち、営業利益全額を弁済に振り向けたと仮定しても、更に相当希望的観測を加え、売上総利益増大、販売費、一般管理費の減少に努力したと仮定しても、五年や一〇年では、完済できないことが明らかである。現実には、当時の借入金の利息、割引料は、約四百数十万円を計上しているので、その支払も当然考えなくてはならないのであるから、到底、五年や一〇年では、本件求償権の行使が可能な状態、すなわち、原告の求償債権の弁済期の到来は、全く予想されないというべきである。

現に、大石天狗堂は、現時点においても、仮に原告が求償権を有していたとしても、その弁済期さえも到来していない状態である。

(三)  昭和五六年四月一日以降の事業年度期における大石天狗堂の資産・負債の各期末残高は、別表5、6のとおりである。別表2ないし6を検討すると、順次売上げが増加し、各期の損益も、損失が減少しているとはいえず、むしろ、売上げについては、一、二の事業年度を除いて横這い状態で、物の値上がりを考えると実質は売上げ減といってよく、さらに各期の損益についても、一、二の事業年度以外は、損失は増加しているといっても過言ではない。むしろ、利益がなく損失が続いていること自体、大石天狗堂の状態は、本件求償権を長期借入金の返済と同様な方法で行使することが可能であったなどといえなかった証左である。

(四)  大石天狗堂は、和議認可決定後に、金融機関から新規借入をなし、これを毎期徐々に返済しているが、これは、原告らが、大石天狗堂の金融機関に対する債務を個人財産を処分して全額返済し、売却代金のうち、かなりの額については、大石天狗堂に投入して長期貸付金処理をし、かつ、約三六〇〇万円余の本件求償権を放棄するなどの誠意ある態度を示し、大石天狗堂の営業状態、財務内容等の健全化に努めたからにほかならない。

(五)  大石天狗堂の短期的な支払能力を表わす流動比率及び当座比率についての指数は、被告の主張とおりであるが、右指数は決して安定した数字ではない。通常、流動比率は二〇〇パーセント、当座比率は一〇〇パーセントで安定したものとされているからである。それはともかくとして、一般論としても、大石天狗堂の場合も、右流動比率及び当座比率で、短期的な支払能力は安定とまではいかず、どうにかその能力があるといえたにすぎず、これをもって、本件求償権を長期借入金と同じ方法で行使することが可能であったとは、到底いえない。

(六)  また、大石天狗堂は、和議で、「ておりプチ」の将来性を述べ、原告らの本件求償権の支払猶予をしてでも、その成立を希望し、再建を希求したのも事実である。これは、大石天狗堂としても当然のことであり、原告は、本件求償権の支払猶予だけではなく、その求償権の放棄をしてでも、この再建を望んだのである。それは、もはや原告ら自らのためのみではなく、債権者及び従業員、ひいては社会全体のためでもあった。したがって、大石天狗堂の和議手続の段階で若干希望的な意見が述べられたからといって、原告らが本件求償権の行使をしても、大石天狗堂がこれに応じられるだけの経営状態、財産状態であったと原告自身是認したとか、客観的にそうであったとは、いえない。

(七)  「ておりプチ」は、その業績が極めて良好で、大石天狗堂の再建に多大なる寄与をし、このため、当初の目的どおり大石天狗堂は再建したが、このことは、直ちに将来とも大石天狗堂が安泰で健全経営を維持できるということを意味するものではない。まして、これのみで、本件求償権の行使が可能な状態になっているなどという状態ではない。

周知のように、「おもちゃ」業界では、次々にヒット商品を開発していかねばならず、ヒット商品も数年でその生命が尽きるのである。「フラフープ」とか「ダッコチャン」の例を考えれば明らかである。大石天狗堂は、「ておりプチ」で何とか和議会社を再建しつつあるというのが現状である。

(八)  大石天狗堂の流動比率及び当座比率は、前述したとおりで、短期的な支払は可能であるが、もし、右比率が現在以上に低くなれば、それは、もはや、短期的な支払さえ不能の状態ということになる。ところが、企業の安全性を測る目安として、種々のものがあるが、その代表的なものとして、自己資本比率と借入金月商倍率を、大石天狗堂について検討してみる。

大石天狗堂の自己資本率は、最低約五・八パーセントから最高約二〇・六パーセントである。また、借入金月商倍率は、最低月商約一二〇〇万円の事業年度で約二・五、最高月商約一七五〇万円の事業年度でも、それほど変りがない。この数字には、本件求償権は含まれていないが、これを含めると右数字はさらに悪化する。借入月商倍率は、六か月分を超えるであろう。

企業の安全性上、普通、自己資本比率は、二五パーセント、借入金月商倍率は、一・五とされているが、大石天狗堂の場合、本件求償権を長期借入金に算入しない場合でも、右各比率より悪化しているが、仮に本件求償権を長期借入金に算入した場合、右各比率は、到底、企業の存続を許す数字ではない。原告の本件求償権の行使が不可能な所以である。

第三証拠関係

本件記録中の証拠の標目欄記載のとおり。

理由

一  本件の唯一の争点は、原告がした本件求償権の放棄が、所得税法六四条二項にいう「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当するかどうかであり、その他の原告の昭和五二年分の所得金額の計算は、当事者間に争いがない。

二  さて、所得税法六四条二項にいう「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、求償権行使の相手方である主債務者が、倒産して事業を廃止してしまったり、事業回復の目処がたたず、破産もしくは私的整理に委ねざるをえない場合は勿論のこと、主債務者の債務超過が著しく、その状態が相当長期間にわたって継続することが予測されるため、求償債務の弁済の見込がたたない場合、又はこれらに準ずる場合であって、そのことが、求償権放棄の際、主債務者の経理内容から客観的に確実となったときを指称すると解するのが相当である。

三  そこで、この視点に立って本件を観る。

(一)  まず、当裁判所が昭和五三年一月二三日、大石天狗堂に対してした和議認可の和議条件は、昭和五八年四月三〇日までに、届出債権の総額金八七三九万一六六四円の元本額全額を分割弁済し、利息、損害金の免除を受けるというものであり、大石天狗堂は、この和議条件を履行したのである(成立に争いがない甲第六号証及び証人前田俊行の証言によって認める)。

このことは、大石天狗堂の経理内容が、和議認可後も比較的良好であることの証左である。

(二)  そこで、和議認可前後の昭和五三年から昭和五八年までの大石天狗堂の経理内容を、別表2ないし6(別表5、6の記載内容について、被告は明らかに争わないから自白したものとみなす)でみると、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度では、金七五四万二三八六円の利益を計上している。しかし、その後二年間の事業年度では、約金二二二万円、約金三〇五万円の損失となっている。

このことは、大石天狗堂の営業は、順調であるということを示しており、その損失の程度は、取るに足らないものである。

また、大石天狗堂の資産と負債とを対比したとき、債務超過の状態にはない。

大石天狗堂は、昭和五四年三月三一日現在金二七〇〇万円を、訴外京都中央信用金庫十条支店から借り入れている。勿論これには、大石天狗堂の社屋の土地(原告個人名義)を担保に供したことがある(前田証言二二丁によって認める)。

しかし、和議認可中の大石天狗堂に対し、金融機関が多額の融資をしたということは、金融機関である京都中央信用金庫が、大石天狗堂の営業内容を良好であると判断したからである。

そうして、大石天狗堂は、和議認可後の借入金を、順調に返済している(別表4参照)。

(三)  原告らは、本件不動産の売却代金のうち、手数料などの経費を控除し、立退費用にその一部を支弁し、残りを、保証債務の履行に充てて大石天狗堂に対し求償権を取得するとともに、大石天狗堂に原告が八五六万五七七九円大石良三が一六六二万七六八八円を貸し付けた(証人大石良三の証言によって認める)。

別表4によると、原告らのこの貸付金は、年々弁済されて減少していっている。そして、原告らは、この貸付金に対し、利息の支払まで受けているのである(成立に争いがない乙第二ないし第七号証、証人今井滋の証言によって認める)。

(四)  原告らが、個人所有財産の処分をしてまで大石天狗堂の債務を整理したのは、大石天狗堂が原告らの同族会社であったからではあるが、原告らは、債務の支払猶予を認めた和議認可さえあれば、大石天狗堂は立ち直れるものと考えていた。その理由として、昭和五〇年一一月から販売をはじめた女児玩具「ておりプチ」の予想外の売行きを挙げることができる。そして、原告らは、和議認可前に確定的に求償権を放棄する意思をもっていたわけではなかった(成立に争いがない甲第一号証、同第四号証によって認める)。

それにも拘らず、原告らが和議認可直後求償権を放棄し(甲第一四号証参照)、求償権を長期貸付金としなかったのは、顧問税理士が、求償権を放棄して所得税法六四条二項の適用を受ければ節税になるとすすめたからである(証人前田俊行、同大石良三の各証言によって認める)。ということは、原告らは、大石天狗堂が、債務超過が著しいとか、事業継続が不可能の状態にあるから、仕方なく求償権を放棄したのではなく、もっぱら、分離長期譲渡所得課税を免れるための方便として求償権を放棄したまでである。

(五)  まとめ

このようにみてくると、原告の本件求償権の放棄が、所得税法六四条二項に該当するとするのは、到底無理である。

三  むすび

本件処分には、原告が主張する違法の点がないから、原告の本件請求は、失当として棄却を免れない。そこで、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 古崎慶長 判事 小田耕治 判事補 西田眞基)

別表1

<省略>

別表2

合資会社 大石天狗堂本店の資産・負債の各期末残高

<省略>

別表3

<省略>

別表4

合資会社大石天狗堂本店の借入金の各期末残高

<省略>

別表5

合資会社大石天狗堂本店の資産・負債の各期末残高

<省略>

別表6

<省略>

別紙目録

大石良三名義物件

(土地)

(一) 京都市東山区本町一八丁目三七一番一

宅地 五六二・四一平方メートル

(二) 京都市東山区本町五条下ル本町一八丁目三七四番一

宅地 二〇八・九二平方メートル

合計 七七一・三三平方メートル

(建物)

(三) 京都市東山区本町一八丁目三七一番地の一、三七四番地の一

家屋番号 同町 三五番

店舗・木造瓦葺二階建

一階 七一・七三平方メートル

二階 六二・八〇平方メートル

店舗・木造瓦葺二階建(以下附属建物)

一階 六一・一五平方メートル

二階 六一・一五平方メートル

便所・木造瓦葺二階建

一階 五・二八平方メートル

二階 五・二八平方メートル

(四) 京都市東山区本町一八丁目三七一番地二、三七一番地三

家屋番号 本町一八丁目三七一番二

居宅・店舗木造瓦葺二階建

一階 五六・八八平方メートル

二階 四〇・六二平方メートル

(五) 京都市東山区本町一八丁目三七一番地二、三七一番地三

家屋番号 本町一八丁目三七一番三

居宅・店舗木造瓦葺二階建

一階 四二・一八平方メートル

二階 三九・六二平方メートル

前田正文名義物件

(土地)

(六) 京都市東山区本町一八丁目三七〇番一

宅地 八〇・一八平方メートル

(七) 同所 一八丁目三七〇番一〇

宅地 一三二・一八平方メートル

(八) 同所 一八丁目三七〇番一六

宅地 一一九・三一平方メートル

(九) 同所 一八丁目三七〇番三

宅地 六三・六〇平方メートル

合計 三九五・二七平方メートル

(建物)

(一〇) 京都市東山区本町一八丁目三七〇番地の一

家屋番号 同町 三六番

居宅 木造瓦葺平家建 二九・七五平方メートル

居宅 木造瓦葺三階建(附属建物)

一階 一五六・六九平方メートル

二階 一五六・六九平方メートル

三階 七四・〇四平方メートル

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